免許を得た日から同僚との距離は静かに動きはじめる
調理師免許を手にしたあとには、これまで気安く話していた同僚との距離が、少しずつ動きはじめます。誰かが意識して変えているわけではないのですが、互いの立ち位置が変わることで自然に生じる変化です。
変化そのものは悪いものではありませんが、気づかないままにしておくと、ちいさな溝が生まれてしまいます。だからこそ、関係が動きはじめた時期に一度立ち止まって、自分の姿勢を見つめ直しておきたいところです。
同じ持ち場で働いてきた人にとって、隣にいた仲間が資格を得たという出来事は、思いのほか大きく響きます。応援したいという気持ちと、ほんの少しの焦りとが同時に生まれることも、決して珍しくはありません。
そうした相手の気持ちを想像できるかどうかが、そのあとの関係を大きく左右していくことになります。想像したうえで態度を選べる人は、免許を得たあとも変わらずに、良い関係を続けていくことができます。
気をつけたいのは、知識が増えたことによって、つい言葉づかいが上からのものへ変わってしまう場面です。本人にその気がまったくなくても、受け取る側にとっては大きな違いとして響いてしまうことがあります。
反対に、遠慮しすぎて何も言わなくなってしまうのも、良い形とは言えないと考えてよいでしょう。学んだことを共有しないままでいると、職場全体の力が伸びていく機会を逃してしまうことになるからです。
ちょうどよい距離を見つけていくためには、相手の様子を見ながら少しずつ試していくよりほかありません。試しながら調整していくうちに、その職場に合った自然な関わり方が少しずつ見つかっていくものです。
距離が変わっていく時期には、これまで以上に、挨拶や短い雑談といった基本のやりとりが効いてきます。何気ないやりとりが積み重なっていくことで、立場の違いを越えた信頼が保たれていくことになります。
関係が変わっていくことを恐れるのではなく、より良い形へ育てていく機会だと捉えてみたいところです。捉え方を少し変えるだけで、免許を得たあとの日々は、ずいぶんと過ごしやすいものになっていきます。
頼られる側へ回ったときに心がけたい伝え方
免許を得ると、手順や理由について尋ねられる機会が、これまでよりもはっきりと増えていくことになります。尋ねられたときにどう答えるかによって、周囲との関係はさらに大きく変わっていくことになります。
まず心がけたいのは、正しさだけを前に出さず、相手が受け取りやすい言葉を選ぶという姿勢になります。まったく同じ内容であったとしても、伝え方ひとつで届き方はまるで違うものになってしまうからです。
たとえば、なぜその順序で進めるのかを説明するときには、結論から先に短く伝えると分かりやすくなります。そのうえで理由を添えていくと、聞いている側は自分の頭のなかで整理しながら受け取ることができます。
相手がすでに知っていることを長々と説明してしまうと、伝わるどころか距離が広がってしまいます。どこまで分かっているのかを短く確かめてから話しはじめると、無駄のないやりとりになっていきます。
教える場面では、否定から入らずに、まず相手のやり方の良い点を見つけて伝えるようにしたいものです。良い点を認めてもらえた人は、そのあとに続く助言についても素直に耳を傾けてくれるようになります。
自分にも分からないことがあると、正直に伝えられるかどうかも、頼られる側にとっては大切な点です。分からないと言える人のほうが、かえって周囲の信頼を集め、相談が持ち込まれやすくなっていきます。
答えを確かめてから返すという習慣を持っていると、伝えた内容の確かさが保たれるようになります。確かさが保たれている人の言葉は、時間が経てば経つほどに、静かな重みを増していくことになります。
伝え方を磨くためには、自分が教わったときの気持ちを、折にふれて思い返してみるのが役に立ちます。うれしかった伝え方と、そうでなかった伝え方を思い出してみると、選ぶべき言葉が見えてきます。
頼られる側へ回るということは、責任が増えることであると同時に、大きな喜びでもあると言えます。誰かの役に立てたという実感は、日々の仕事を長く続けていくための、確かな支えになってくれます。
関係がぎくしゃくしそうなときに立ち返る一点
どれほど気を配っていても、関係が少しぎくしゃくしてしまう時期は訪れるものだと考えてよいでしょう。そうしたときに立ち返りたいのは、自分たちが何のためにここに立っているのかという一点になります。
厨房に立つ人は皆、目の前の一皿を良い形で届けたいという願いを、共通して持っているはずです。その願いを思い出してみるだけで、細かな行き違いは驚くほど小さなものに見えてくることがあります。
ぎくしゃくの原因は、多くの場合、能力の差ではなく、伝え方や受け取り方のずれにあると言えます。単なるずれであるならば、話し合いによって整えていくことが十分に可能だと考えてよいでしょう。
話し合うときには、相手を責める言い方を避け、自分がどう感じたのかを伝えるようにしたいものです。感じ方を伝えるという言い方であれば、相手も身構えることなく耳を傾けてくれるようになります。
また、話す場所と時間を選ぶということも、想像以上に大きな意味を持っていると言えるでしょう。忙しい最中を避けて、落ち着いた時間に短く伝えるほうが、内容ははるかによく届いていくものです。
免許を持っているからといって、いつでも自分が正しいと考えてしまうのは危うい姿勢になります。現場を長く支えてきた人の見方のなかには、学びだけでは届かない確かさが含まれているからです。
相手の意見をいったん受け止めてから自分の考えを述べると、話し合いは前へ進みやすくなります。受け止めてもらえたという感覚こそが、相手の側にも歩み寄ってみようという余地を生んでくれるからです。
それでも折り合いがつかないときには、いったん時間を置いてみるという選択も有効になってきます。少し離れてから振り返ってみると、互いに冷静な言葉を選べるようになっていることが多いものです。
立ち返る一点を共有できている職場は、多少のぶつかり合いがあっても、必ず元の形へ戻っていきます。元へ戻る力を持っている関係こそが、長く働き続けていくうえでの何よりの支えになってくれるはずです。
仲間と共に伸びていくために踏み出したい一歩
免許を得た人にぜひ踏み出してほしいのは、学んだことを職場の仲間へ手渡していくという最初の一歩です。手渡された知識は、その職場のなかで少しずつ形を変えながら、確かに根づいていくことになります。
手渡し方としては、まとまった時間を取るよりも、日々の作業のなかで少しずつ伝えるほうが向いています。短い言葉で繰り返し伝えていくと、相手の負担になることもなく、自然と定着していくことになります。
伝える内容としては、難しい理屈ではなく、明日からすぐ使える小さな工夫を選ぶと喜ばれるものです。すぐに役立つという実感が得られると、聞いた側の意欲が高まっていき、次の質問が生まれてきます。
学びたいと考えている仲間がいる場合には、その気持ちをそっと後押しする役目も担うことができます。ただし要件や手続きについては断定せず、公の窓口で確かめるよう伝えることが何よりも大切になります。
共に伸びていく関係をつくるためには、教える側だけでなく、教わる側にも回っていく必要があります。相手が得意としていることを素直に尋ねられる人は、周囲の仲間から本当に好かれていくものです。
小さな成功を一緒に喜ぶという習慣もまた、仲間との関係を深めていくうえで大きな力を持っています。喜びを分かち合った経験は、忙しい時期を乗り越えていくための大きな力になってくれるからです。
職場全体の力が上がってくると、ひとりにかかる負担が軽くなり、働きやすさが確かに増していきます。働きやすさが増してくると、新しい工夫に取り組んでみるための余裕まで生まれてくることになります。
仲間と共に伸びていくという考え方は、遠回りに見えていて、実は最も確かな近道になっていきます。ひとりで進める距離にはどうしても限りがありますが、皆で進んでいけばずっと遠くまで届くからです。
免許を持つ人が最初の一歩を踏み出すと、その動きは静かに周囲へと広がっていくことになります。広がった先で誰かが同じ一歩を踏み出すとき、その職場は確かに変わりはじめていると言えるはずです。
まとめ
調理師免許を手にしたあとには、これまで気安く話していた同僚との距離が、静かに動きはじめていくものです。変化そのものは決して悪いものではありませんが、気づかないままにしておくと小さな溝が生まれてしまいます。
頼られる側へ回ったときには、正しさだけを前に出さず、相手が受け取りやすい言葉を選ぶ姿勢が大切になります。分からないことを正直に伝えられる人のほうが、かえって周囲からの信頼を集めていくことになるはずなのです。
関係が少しぎくしゃくしてしまったときには、自分たちが何のためにここに立っているのかへ立ち返りたいものです。目の前の一皿を良い形で届けたいという共通の願いが、細かな行き違いを驚くほど小さく見せてくれるはずです。
仲間と共に伸びていくためには、学んだことを日々の作業のなかで少しずつ手渡していく一歩が有効になります。明日から使える小さな工夫を選んで伝えていくと、相手の負担になることもなく、自然と定着していくものです。
学びたいと考えている仲間を後押しするときには、要件や手続きを断定せずに伝えることを心がけたいものです。制度は時代とともに移り変わっていくため、公の窓口で確かめるよう勧める姿勢こそが、いちばんの助けになります。
資格を得たことをきっかけとして、周囲との関わり方をあらためて見つめ直してみたいところだと言えるでしょう。関係をより良い形へ育てていくことができれば、料理の仕事はこれまで以上に確かなものになっていくはずです。